欧州では100年以上使い続けられる住宅も珍しくない一方、日本では築30年前後で建て替えられるケースが多いのが現状です。その背景には、「古い建物を活かしながら使い続ける」という文化や制度が、十分に根付いていないことも挙げられます。
本プロジェクトは、そうした状況に対する一つの提案として、古民家を解体せず改修によって再生することを選択しました。対象は、鹿児島県阿久根市の老舗酒蔵に隣接する古民家です。耐震補強が施されておらず、長らく未使用の状態でしたが、所有者は建物に刻まれた歴史や思い出を残すことを重視し、解体ではなく改修による再生を決断しました。

伝統的空間構成の再解釈
改修では、伝統的な「田の字」型の間取りを活かしながら、現代の生活スタイルに合わせてゾーニングを再構成しました。キッチン・リビング・寝室などの居室は、快適性を確保すべき明確なゾーンとしてまとめ、それ以外の空間を土間や縁側といった屋内外の中間領域として計画しています。これにより、冷暖房が必要な床面積を最小限に抑えました。障子には従来の和紙に代えて半透明のポリカーボネートを採用し、採光を確保しながら断熱性能を向上。夏季には建具を開放することで自然換気を促します。さらに天窓を設けることで空気の流れを生み出すとともに、150年以上受け継がれてきた木造の組手を自然光が美しく照らし、構造そのものの存在感を感じられる空間としました。



再構築したゾーニングに対して現行基準レベルの断熱性能とパッシブデザイン手法を適用した結果、冷暖房エネルギー消費量は床面積当たり約80%削減可能となりました。

LCAによる意思決定と環境負荷削減
プロジェクト初期段階において「解体して新築するか」「既存建物を改修するか」という判断材料の一つとして、LCA(ライフサイクルアセスメント)を活用しました。
構造体の再利用を最大限に図るとともに、新たに使用する建材についても可能な限りバイオベース素材を選択しました。一般的に同規模の住宅を新築する場合はべた基礎が採用されることが多く、その際に使用される大量のコンクリートがCO₂排出量の大きな割合を占めます。本プロジェクトでは、その結果、簡易的な初期LCAの結果からも、既存構造を活用するリノベーションの方が、同規模新築と比べて約40%の二酸化炭素排出量削減が可能であることが示されました。

新築とリノベーションのLCAアップフロントカーボンの比較
オレンジ:内装にかかる二酸化炭素排出量、青:構造にかかる二酸化炭素排出量、グレー:炭素固定量
未来へ継承する建築
本プロジェクトは、単なる改修ではなく、伝統的木造建築の価値を現代技術によって再解釈し、次世代へと継承する試みです。解体と新築が前提とされがちな日本の住宅文化に対し、「活かして使い続ける」というもう一つの選択肢を提示しています。
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